今日は終業式だったので…
         〜789女子高生シリーズ
 



……っていう、とぉっても美味しい朝ご飯だったのvv
そいでねそいでね、今日はお店も、ほら、
今日だけ限定の白あん入りマシュマロとか、
ハートのぎゅうひ餅いりあんみつとか、
お持ち帰りも出来る甘いの買いに来る男子とか、
二人で食べに来るカップルとか、予約も入ってるほどで忙しいから。

 「だからごめん、今日は真っ直ぐ帰ります。」

大袈裟にお顔の前で両手を合わせた平八だったのへ、
何よ他人行儀なと、笑ってつっこみ。

 「…俺も。」

何ですて、実は一緒に登校?
しかもしかも、帰りも映画に行こうって?
ヤですよ、久蔵殿、それって立派なお誘いじゃないですか。
そうそう、だって今日は……ですしねvv
あ・でもでも、気がついてないって態度でいるのも手かもですよね。
いえいえ、別に何てするこたぁありません。
素直に楽しんでらっしゃい。
それから…今日は何の日かと聞かれてから、
榊せんせえが知ってたなんてという方向で
おおおってびっくりしなさい、なぁんて。
今年度の成績綴った通知表をいただいての、
その後のお掃除の合間に、こっそりこそこそと。
他のお嬢様がたには聞こえぬよう、
声音を落としての、だがだが十分溌剌と。
今日の善き日に彼女らへ降って来た、
それは可愛らしい幸いの数々を、
一緒にはしゃいで喜び合っての…さて。

 “…いいなぁ、ヘイさんも久蔵殿も。”

今日は半日だけの登校、
なのでの その後の約束もあるという二人なのを。
さあさ楽しんでいらっしゃいとばかり、
にっこり祝福の笑顔でもって送り出すよに見送って。
自分だけは予定がなかったの、気を遣われちゃうその前に。

 『アタシは、あのあの、
  父様のお付き合いで会席にお供しなくちゃなりませんで。』

春の画題を肴にしての、一席設けていただいたとか。
それへのお供をっていうお声が掛かっておりますのでと。
ひとり色気のないことには違いないが、
そんな事情では仕方がないと思ってもらえるよう、
自分には あるあるな事情というのを捻り出した白百合様。
ほら急いでと仲良しな二人を先に帰らせ、
少しは雨脚が弱まらないかなと、昇降口で待ってみたけど、
残念、あんまり変化はないままで。

 「……。」

大好きなお人に苦もなく ひょいと逢えちゃう、
そんなひなげしさんや紅ばらさんが羨ましいのはいつものことだが、
今日みたいな日は、ちょっとね。
恋人同士には特別な日で、でもでも、
ちゃんと覚えておいでかどうかというあたり、
相手次第なところがネックでもあって。
練れた間柄ならば、もうもう何やってんのよなんて、
うっかりなお相手への叱咤半分、
こっちからそんな風にお尻を叩いて、逢う切っ掛けに出来るのかなぁ。

 “でもねぇ。”

そうとなってもアタシには無理だなと、
白い吐息をこぼしつつ、
淡い水色の傘の、か細い柄を乗っけた撫で肩がなお下がる。
だって勘兵衛様は、そりゃあお忙しいお人だもの。
それこそ、平日か休日かの区別どころか、朝か晩かの別もないほどに。
そうまでお忙しい人だから、
休みの日は日でゆっくり休んでほしいななんて思うけど。
そこはそれ、まだまだ十代という年頃の身ゆえ。
逢えそうだったら嬉しいなと、
メールやお電話へ正直な声なり顔なりしてしまっちゃって。

 『いやいや、それでいいんだよって。』

さては勘兵衛様、巧妙に隠してるんだな。
シチちゃんと逢う約束をしたらしい電話の後は、
そりゃあ判りやすいほどの上機嫌になってるんだよ?
うんうん、メールより電話だと覿面だねと。
部下の某氏によるすっぱ抜きなんていう確実なソースにて、
そうだと聞いてはいるけれど。

 “ちゃんと我慢も出来なきゃねぇ。”

先で結婚したら、もっとずっと我慢の日々になるって聞いた。
今ならまだ、逢える時間を割いてくれるけど、
結婚したらもっともっと
職場に居着いてしまう亭主になってしまうのが、
刑事という道を選んだ男の性なんだそうで。
しかもその上、手掛ける事件によっては、
凶暴な犯人相手という危険度からの怪我の心配のみならず、
早々に結果を出さねば
世間や関係筋からあらぬ誹謗も襲い掛かるという
どう転んでも難物ばかりを扱わねばならぬと来て……。

 “そうよ、だから我慢や忍耐も身に染ませなきゃあ。”

前世のアタシもその点じゃあ頑張ってたじゃない、
このっくらいは駄々こねちゃいかん、我慢我慢…と。
実に健気な心立て、胸の奥にて呟くものの。

 “…う〜ん。”

いつもだったら、
そんなの思い出しもしないほど 楽しく過ごせているのにね。
いつも一緒にいてくれるお友達がいないと、
こうも易々とひしがれちゃいそうになる。
そんなほども大変な現状だったのねと、
今更ながら思い知った格好の白百合さん。
雨こそ上がったものの、
それへと気づきもしないまま、
気づかぬうち、視線も下がったうつむき加減に歩いておれば、

 「…これ。これ、そこの娘さん。」

そんなお声がどこからか掛かる。
ここはもう、女学園の敷地からも離れての
最寄り駅まで向かう途中の道であり。
少しほど昇降口で立ちんぼしてから出て来たせいか、
ちらと見回した周囲には他の生徒も居合わせず。
よって自分への声らしいとは判ったものの、
何ですよ、今 打ちひしがれてるんです構わないでと、
巡らせた視線を戻し、あらためて相手を見やれば、

 「…………………………。」

 「いかがした。
  まさか、見忘れてしもうたか。」

そうまで長く逢わなんだかの、
確か先週末にも顔は合わせたはずだがと。
そんな途惚けた物言いにお似合いな、
少しくたびれた、つまりは旧型のセダン。
しかもあんまり大事には扱わぬ乗り方しておいでの
埃まみれなまんまという愛車の傍らに立って
こちらを見やっていらしたは、

 「……勘兵衛様?」

お顔を上げたその拍子、あまりに力が抜けてしまったか、
そのお手々から傘が転げ落ちたほど。
転々と転げたその傘のほうをおやおやと見送っておれば、
そんな壮年様の懐ろへとんと飛び込んだ温みがあって。

 「…っ☆」

とぼとぼ歩いていたのは天気が悪くて気持ちが塞いだか、
もしかして風邪でも引いての元気がないのかなぁと、
そのくらいに思っていたか。

 「だとすりゃあ、相変わらずの朴念仁様だよな。」
 「まぁな。」

こんな大事な日、しかも体も空いてたくせに、
捜査課のたまりにいつまでもおいでだ。
俺らと鑑識さんとがそりゃあ踏ん張って、
悪質轢き逃げ犯を追い詰めての
逮捕(あ)げたばっかだっつうのによと。
その取り調べを交通課の担当官と同僚とに任せた佐伯さん。
一見 余裕錫々の、男臭さも全開、そりゃあ精悍なお姿ながら、
そんな余裕の一端から、呑気に様子見をと構えてらした蓬髪の上司様を、
無理から引っ張っての連れ出すと、

 『今からおシチちゃんを誘って、
  美味しい甘味を食べながら
  お花見の予定でも相談して来てくれませんか?』

ココナッツクリームをたっぷりかけたパンケーキとか、
ああ、ちゃんとネクタイ締め直して。
補導された女子高生の図にならぬよう、
さりとて怪しい援交風にも見えぬよう、
勘兵衛様の顔が割れてる健全なところというと、
そうですね、Q街でいいでしょね。
間違っても ▽北沢とか▲千住とかは
草野さんチのご令嬢にはディープすぎるからダメですよ?と。

 「あれじゃあ、今ようやっと今日が何の日か気づいたクチだぞ。」
 「みたいだな。」

とっても嬉しいという素直な気持ちと、
直前までは少々不安だったという危うさの余韻とで、
目元を潤ませている愛らしい美少女が、
彼には不意打ちで懐ろへ飛び込んで来たもんだから。
咄嗟に周囲を見回すところは、
疚しいからか、それともそれもまた大人の防御感覚か。

 「…そういや、なかなか人が通らんな。」

誰か、そう、白百合さんと同じ女学園の子でも通ろうものなら、
掟破りだが仕方がない、
交通規制だとか何とか言って言いくるめる所存だったらしい征樹殿が、
物陰にあたろう隣の辻から辺りを見回せば、

 「そりゃそうさ。
  さっき、通行止めの標識つき車止めを、
  ウチのスタッフが置いたから。」

 「……おいおい。」

それって道交法違反だぞと、目元を眇めた元同僚へ。
お前が根拠もなくやれば大問題だがと応じてから、

 「この先のお屋敷近くの電柱の、
  変圧器の交換だという書類が貼られた車止めなら、
  そうそう問題視するお人もおるまいよ。」

けろりとしたお顔のまんま、
そんな言いようをしたのは誰あろう、例の問題児さんであり。

 「…そこまで見越してたのか? お前。」

さすがは同じ不器用な上司についてた同士だと、
自分以上の手回しの鮮やかさへ、征樹さんが感心しておれば、

 「おいおい、本物なワケないだろうが。」
 「………っ☆」

どうせいちいち問い合わせる人もいなかろう、
彼らが去ったらさりげなく退けときゃあいいだけのことと。
あっけらかんと言ってのけた、くせっ毛の美丈夫さんなのへ、

 「お前はなぁ〜〜
 「そうそう、お前もいい人いないのか?
  今日が何の日かは知っていように。」
 「大きなお世話だっ。」

これこれ、征樹様お静かに。
文字通りの見守ってたご両人が、
雨上がりの住宅街からどこか気の利いたところへ繰り出すのを見送った、
今の生でも気遣いの人らである彼らにも、
どうか 真っ白い幸いがありますようにvv





     〜Fine〜 13.03.14.


  *なんだかバタバタしちゃいましたが、
   ウチのお嬢さんたちのホワイトデイでございます。
   ホワイトデイは、キリスト教の行事じゃないので、
   頭に聖ってつかないんですよね。
   うっかり付けかけてしまいましたよ、いかんいかん。
   シチちゃんと勘兵衛様のデートが尻切れトンボですいません。
   あの二人の場合、すっとんぱったんしないデートともなると、
   それを仕立てる陰の功労者のほうに触れたくもなるのが
   困った順番だったりしまして。(おいおい)
   こっちの良親様は恋人いないらしいです。
   危ない橋ばっかり渡ってますものね。
   でも、征樹様も人のことは言えません。
   人の世話焼きもいいですが、とっとといい人 作りなさい。

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